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SAYURI

色彩のない.. まるで、水墨画のような世界。
哀しげな 尺八の音色に包まれて、物語は始まる。


日々、暮らしていくのも ままならないほど
貧しさと病に 冒された生活。
余命いくばくもない 妻を抱え、
ここよりはマシだ.. と、父親は考えたのだろう。
姉妹は、置屋に売られることになった。
ひとことの説明も 別れもなく..。
既にさとりつつ、妹を支えている姉の表情が、痛い。

置屋での、嫉妬やいじめにまみれた つらい生活。
それが、お涙頂戴ではなく
こんなにも、美しい物語に仕上がっているのは
そこに、恋と憧れが 満ちあふれているから。




姉・佐津は、木の性..
大地に根を張り、いつかは 花を咲かせることが出来る。
妹・千代 (後のSAYURI)は、水の性..
どんな隙間にも染み渡り、その場所に なじむことができる。
.. とは、彼女たちの母の言葉。
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水の性の千代は、不思議な 青い目をしている。
それは、哀しげでもあり、澄んでいるようでもあり..
憂いを含んだ 青い目は、神秘的で美しい。
.. どしゃ降りの雨
.. ゆるやかに 流れる川
彼女の人生の 象徴的な場面には
いつも水があり、水に包み込まれていた。

千代が 置屋に入ってから、
それまで 日本語で伝えられていたものが、さっと 英語に切り替わる。
異文化に来てしまったという、千代の不安が 手に取るように感じられた。
(欧米の人は、そう感じないだろうけど)
その後、英語の合間合間に、日本語が当たり前のように入ってくるが
これは、逆に欧米の人にとって、異空間を醸し出す要素となりうるだろう。

妙な髪型。妙な踊り。妙な風習。 妙な 立ち居振る舞い。
着物にいたっては、もう 着物をモチーフにした ドレスといった印象。
日本の物語なのに、
日本じゃない場所。日本語じゃない言葉。日本人じゃない人。
でも、そんなことは どうだっていい。
これは、ファンタジーの世界なのだから。

舞妓と芸妓と花魁が、混同されてたりして
違和感を感じるようなところも あったけど
初めて知ることも多くて、私には 興味深かった。
もともと 花街自体
一般的な日本人にとっても、ファンタジーの世界なのかもしれない。

SAYURIの美しさは、言うに及ばず..
赤を 印象的に使った、鮮やかな色彩
常に、横からふんわりと包み込んでいるような、オレンジがかった光..
特に、アップで撮されていた 小物の美しさには、圧倒された。
製作者の 日本への憧れが、伝わってくるようだった。
もし、日本人が撮ったなら
こんなにも 美しい映画には、ならなかったかもしれない。

SAYURIが、「会長さま」に惹かれていった理由や
思いを募らせていく様子が
とても 丁寧に描かれていて、すんなりと気持ちを寄せていくことが出来た。
「会長さま」のSAYURIを見るときの、まぶしそうな目..
自分が見いだして 育てあげた人を、自分のものにする..
源氏物語じゃないけど、これって 世の男性の願望なのかも? (笑)

人物のアップが、とても 多かったけど
どの役者さんも、すごく いい表情をしてた。

・「千代(子役)」大後寿々花.. 青い瞳をしていなくても、
  彼女なら、不思議な魅力を醸し出すことが出来たんじゃないかしら?
・「SAYURI」チャン・ツィイー.. 可憐な表情や仕草..
  もう ずるいと思うほどの かわいさ。
・「会長さま」渡辺謙.. 優しく愛おしそうにSAYURIを見る目。
  少年っぽい笑顔。もう 惚れちゃいそう♪
・「延さん」 役所広司.. 卑屈な男が、歪な気持ちを表現していくときの
  凄みが、たまんない。
・「豆葉」ミシェル・ヨー.. 自信に満ちあふれた、品の良さ。
  男爵の水揚げの値段を知ったときの、嫉妬とも悲哀とも言えぬ表情。
・「初桃」コン・リー.. 火の女の 激しさと艶やかさの骨頂。
・「おかあさん」桃井かおり.. 予告で見たときから 気になってた
  あのヤな感じの貫きっぷり。

登場人物が、そう多くない分
それぞれの性格や役割の割り振りが、はっきりしていて 心地よかった。

色彩&光の美しさや、微妙な表情..
大画面で 観て欲しい映画だから、まだの方は 急いで観てね♪

by keko_m | 2006-01-10 02:01 |  * movie